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「僕は彼女に命を狙われているんです」
「彼女?」
「ああ。この娘なんですけど」
少年が取り出した写真には、少年と一緒に女の子が明るい笑顔で写っている。
「へぇー。なかなか別嬪さんじゃない。名前は何て言うの?」
亜緒が茶化すように聞く。
「瞑想類(めいそうるい) 現子(うつつこ)っていいます」
「変わった名前だね」
オマエが言うな。と、亜緒に一瞥くれてから蘭丸が逸れた話を戻す。
「この娘に命を狙われるような覚えがあるのか?」
「まぁ。そうですね……。彼女のことを殺しちゃいましたから」
二人は顔を見合わせた。互いが妙に困った顔をしている。
「つまり、殺した彼女が幽霊になって君を取り殺そうとしているとか、そういう話か?」
蘭丸の言葉に、「よくある話だ」と亜緒が付け加えた。
「似ているけど、全然違います」
少年のドヤ顔に軽くイラッと来る。
「現子は、ちゃんと生きている身体で僕を殺しに来るんです」
「お前、本当にキッチリ殺したのかよ。未遂に終わったんじゃね? そんで怒り心頭の彼女が、今度はお前を殺そうと復讐しに来ているんじゃね? だったら警察か逃がし屋へ行け」
意味は異なるが、亜緒の発言は事の真相を半分近く言い当てていた。
投げやりになった亜緒を蘭丸が嗜めながら、宗一郎少年の話を纏める。
「少し話を整理させてくれ。宗一郎くん、君は自分の彼女である現子という少女を殺したのかね。間違いなく?」
「間違いなく、この手で殺しました」
言ってから少年は考え込んで再び口を開いた。
「もしかして、御二人とも僕が一方的に無理やり現子を殺した殺人犯……なんて目で見てます?」
「安心しろ。妄想殺人癖か自傷癖を持った多感なお年頃だと思っているから」
亜緒が少年に哀れみを込めた視線を送る。
蘭丸は最初からキチンと順序立てて話せと言った。
事の発端は、現子が自分を殺してくれと宗一郎に頼みだしたのだという。
最初は冗談なのだろうと一笑に付していたが、現子の頼みは回を重ねる度に執拗かつ懇願とも取れるような異常性を持つようになっていったという。
「それで殺してしまったのか?」
蘭丸の声音は呆れていた。
「だって愛する彼女にそこまで頼まれれば、断るなんて出来ないじゃないですか」
「君の彼女も随分と変わっているけど、だからって本当に殺しちゃう君も大概だねぇ」
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