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「まるで鬼みたいだね。他には空を飛んだりとか、特殊な能力が瞳に宿るとか、様々な報告があるからね。単に不死身ってだけじゃないのよ。黄泉帰りは」
ジャーマンポテトエッグを頬張りながら、どこか教師のような言い方をする。
空腹の孤独から開放されたせいか、亜緒は言葉を紡ぎ続ける。
「でも君はツイているぞ少年!」
飲んでいたバナナジュースのストローを無作法に宗一郎へと向ける。
「黄泉帰りに狙われると、大抵は最初の接触時で殺されてしまうものらしいからなー」
言ってから大声で笑い出す。
「すまない。亜緒はこういう奴だから気に障ることもあるかもしれないが、君が現時点で生きているということは本当にラッキーだと思うよ」
蘭丸のコーヒーカップが空になる。おかわりを要求する。
「危機一髪でしたよ。現子に永遠に君を愛すから殺さないでくれって言ったら動きが止まったので、その隙に逃げることが出来たんです」
「それは結構。でも彼女は今夜も君を殺しにやってくるだろうな」
「それなんですけど、考えてみれば夜を待たずに今、この瞬間に現子が襲ってくる可能性だってあるわけですよね」
「可能性としては確かにあるが、先ず間違いなく夜だろう。どういう訳か分からないが、黄泉帰りは決まって日が沈んでから目的行動を取るんだ」
昼の薄暗さが嫌いなのか。その薄暗さの下では異常な力を発揮出来ないのか。
とにかく黄泉帰りの目標達成時刻は、決まって夜の帳の中なのだ。
「でも……始末なんて出来るんですか? 現子は僕を殺すまで死ぬことは無いんですよね」
空になったクリームソーダのグラスの中で、融けかけの氷が不吉に滑った。
「心配するな少年。策は幾つか有る。例えば蘭丸が持っている刀。これは只の刀ではない。『電光石火』と云って、この世界に五振りしかない特殊な刀の一つだ。一見、女みたいで頼り無さそうに見えるが蘭丸自身かなり腕も立つ」
「オマエが言うと嘘くさく聞こえるな」
蘭丸は自身の強さを否定しない。
腕に自信がなければ、初めから始末屋などに身を置いてはいない。
「今夜、中央公園に黄泉帰りが跳び付きそうな餌を放つ。やって来た始末対象を蘭丸が後ろからバッサリって寸法よ」
言いながら亜緒がチョコレートケーキをフォークで二つに切ってみせた。
「隙を突くわけか」
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