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音を立てないように草摺を結び、馬には枚(ばい)を噛ませて雨の中を登っていくと、山腹の途中、大木の下で雨を避けている一隊が目に入った。
「藤吉郎殿、梁田殿、アレにするか」
甚介が小声で尋ねた。ざっと20人ほどである。槍はたてかけられているし、中食(ちゅうじき)を使っている者もいる。弛緩しきっている。
「そういたしましょう」
と藤吉郎も小声で頷いた。梁田広正も頷いている。
「駆け上がります。遅れなさるなよ」
と甚介が言うやいなや合図を送り、一気に50名が山腹を走り上がり小隊へ斬り込んでいった。
信長の耳に多勢が走る音、倒れる音、肉が斬られる音が聞こえ、やや間があって
藤吉郎の大音声がこだました。
「ご謀反、ご乱心でござる。」
「ふふ、サルめ。なかなかの駿河訛りだな」
信長はそう呟くと馬を丘へと進めた。小高いところに立って見下ろすと、すでに今川方は算を乱して逃げ始めていた。
そこを生駒甚介や藤吉郎、梁田の兵たちがおそいかかっている。
油断していたので、まともに応戦できるものがいない。
「義元本隊はどこか」
信長は目をそばめてあたりをみまわした。
「?あれか」
はるか前方の大木の下に幔幕が張り巡らされ、そこだけはさすがに人が多いように見える。
だが、かなり動きが忙しないところをみると、この騒動の知らせがもたらされたのだろう。
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