記憶に残るキスの味

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涙を拭ってくれた手は、優しすぎて余計に泣けた。 あの手は……誰の手だった? 久しぶりに感じた、抱きしめられる温もり。 体温って、こんなにも安心できるんだ、と酒にも空気にも酔っていた。 ぎゅ、と強く抱き寄せられて、瞼や頬に唇が触れた。 キスされた、と認識した次の瞬間、唇同士がとても危うく近い距離まで近づいていた。 相手は何も言わなかった気がする。 私の泣き声も止まった。 唇を重ねていいのかどうか。 互いの空気を読む、一瞬の駆け引き。 そんなキスの仕方をしたのは初めてで、異様にドキドキしたのを覚えてる。 奪うようなキスじゃない。 ゆっくりと、もどかしいくらいに 唇の柔肌が、触れ合った。 「あぁぁぁ!!!!」 と叫んで一旦記憶発掘作業を中断した。 思い出しただけで心臓がバクバク鳴り始めて、体温まで急上昇したからだ。 なんなの! キスの記憶はやけに鮮明なのに、相手がさっぱり思い出せない! いや、夢? やっぱり夢だから相手が思い出せないんだろうか。
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