記憶に残るキスの味

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――――――――――――― ―――――――― 建築、内装に使われる資材を取り扱う会社で、業界ではそこそこ名は知れている。 建て替えられたばかりの十階建てのオフィスビルの五階フロアが、営業課と促進課のオフィスだ。 営業促進課とは営業の補佐的な仕事が主で、資料の作成やデータ集め、時には営業に連いて取引先との交渉に出向くこともある。 いわば女房役みたいなもので、主任と課長以外は女性ばかりだ。 なのでちらちらと問題が起きることも多い(当然男女間に置いて) 以前の課長は、女に囲まれて何をはっちゃけたのかセクハラモラハラの嵐でその女癖の悪さから遂に異動になった。 その後を継ぐ形で当時主任だった藤堂さんが課長職に付き、穴を埋める形で高見主任が配属された。 他部署からわざわざ配属されてきたのは、愛妻家で有名だからではないかと女性社員の中ではそんな噂がされている。 パソコンの前で手を休め、コキコキと首を鳴らした。 明日までと頼まれていた資料作成は終了、後はこれをプリントアウトして人数分作成して……その前に、皆の分コーヒーでも淹れようか。 始業してから二時間、頃合いだ。 そう思い腰を上げようとすれば、ちらりと頭を掠めるのは例の一件だ。 腕時計は存在するのだから、私は確かに誰かを家に上げたのだろう。 だが結局、それが誰なのか思い出せないまま、出勤時刻となり慌てて家を出てきた。
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