記憶に残るキスの味

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悶々と考えながら、給湯室へ向かおうかと漸く腰を上げた。 そのタイミングで、能天気な声をかけられた。 「さよさぁん。お疲れ様です」 「西原って呼びなさいっていつも言ってるでしょ、東屋くん」 人懐こい笑顔で立っていたのは、二つ年下の営業、東屋だ。 彼が入社したての研修期間、この促進課で私が指導していた。 だから今でも慕ってくれているのはいいのだが。 「ここは職場! オフィスなんだからもうちょっとしゃきっとしなさいよ」 「お願いしてた資料、どうなったかと思いまして」 人の話を聞けや! へらっと笑いながら頭を掻く。 本当にこんなんで営業が務まってるのか、と心配だったがなんてことはない。 園田がやけに、彼を意識していたのを知っている。 プライドの高い園田が。 つまり、園田から見て出来る人材だということだ。 「必要部数コピーして留めるだけ。昼には出来るわよ」 「あざっす!」 さて今度こそ給湯室に、と歩き始めると、彼もなぜか後ろをついて来た。
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