記憶に残るキスの味

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営業に身を置く彼、園田は、営業促進課の私とは接点が多かった。 余り付き合いを知られたくなかったらしい、この時点でもうちょっと私も怪しむべきであったのだが。 会社では「西原」と苗字でしか呼ばなかったけれど、二人きりの時にはこっそりと耳元で囁いてくれた。 ―――……さよ。 たった二文字の、ありふれた名前。 だけど彼が呼んでくれたら、とても特別な名前に聞こえた。 それはどうやら、私の思い違いであったようだけど。 冷めた気持ちで一緒に出席していた同じ会社の同僚たちと、式場を後にする。 手にはクソ重たい引き出物の袋を持ち、その重さを実感するほどにほんとにあの男は鬼畜か、と毒づきたくなる。 別れたばっかりの女を普通、結婚式に呼びますかねえ? 「いいお式でしたねえ。ガーデンウェディング、天気さえ良ければ結構良いかも」 辛うじて周囲に合わせて作り笑顔を取り繕っているおかげで、誰も私の下がり切ったテンションには気づかない。 結婚を身近に意識する女性陣のテンションは、私と違って急上昇中だった。
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