記憶に残るキスの味

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カウンターの奥にいる綺麗なバーテンは聞き上手のほめ上手で、さすが酔っ払いの話相手に慣れている。 心地よく酔いは回った。 「別に、自信なんてないケド」 「そうですか? だったら持った方が良い」 ほわほわほわ、と視界が揺れる。 淡い菫色したカクテルの美しさに酔いながら、口のうまいバーテンダーを軽く睨む。 優しい煽て文句には救われる。 でもね、と、哀しくなった。 勿論、自信の持てる自分になりたいけれど、それよりも。 弱い自分も、守ってくれる人にそばに居て欲しかった。 そうだと思っていた人の腕は、別の女を守るためのものだった。 「……寂しいよぉ」 もう恥も外聞もわからなくなるほど酔っていた。 正直すぎる泣き言を、カウンターに突っ伏して呟いた時、背中に温かい体温が触れた。
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