記憶に残るキスの味

9/38
前へ
/38ページ
次へ
布越しでもすぐに温かいと感じたのは、その手が大きくて労わるように優しく撫でたからだろう。 ん、と顔を上げて後ろを振り向いた。 ……ような、気がする。 ぐら、ぐら、と視線が揺れて、どこが上で下かもわからない。 眩暈が気持ち悪くて、掌で両目を覆った。 耳鳴りがする。 ここまで酔ったのは初めてで、視覚も聴覚も心許ない状況がさすがに怖くなっていた。 「……、?――」 何か声をかけられたが、わんわんと頭に響くばかりでよく聞こえない。 ただ、知り合いだと声を聞いて安心した、ような、気がする。 ふわ、と上半身が傾いて、そこで一度意識が途切れた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9661人が本棚に入れています
本棚に追加