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ーーー 私は私です。
他の誰でもないです。
礼拝堂に一人残された俺の耳に、彼女らしくないあの大きな声が、いつまでも響いて離れない。
そうだ、君は結喜じゃない。
真白ちゃん、君は……
「何してんのよ、先生!」
「赤司先生、早くシロちゃんを追いかけて!」
真白ちゃんが走り去った出入り口から現れたのは、宮林すずと長谷川美琴だった。
「おまえたち、なんで!?」
「シロちゃんの様子が朝から変だったから、私たち気になってて」
宮林の言葉に頷きながら、長谷川が続けた。
「赤司先生、海外へ行くって本当ですか?
そういう噂があるって今朝シロちゃんに話したら、なんだかシロちゃん元気なくて」
「違うよミコちゃん、シロちゃんの元気がないのはもう前から……」
宮林の言葉に長谷川は頷いた。
「シロちゃんが何か悩みを抱えてるんじゃないかって、私たち感じてました。でも無理強いはしたくなくて……。
だからいつか話してほしいって思ってます。そのときは力になってあげようって。
私たち、シロちゃんが大好きだから、いつまでも友達でいたいって思ってるから……」
泣きそうな顔で言葉を詰まらせた宮林に代わり長谷川が俺に向いて言った。
「でも今は私たちじゃダメなの。
私たちじゃシロちゃんを喜ばせてあげられない。
笑顔にしてあげられないんだよ、先生。
赤司先生じゃなきゃ……
だって、シロちゃんにとって先生は特別だから」
「とくべつ……」
「先生が特別な人だってことくらい、シロちゃん見てたらわかるもん。
……それは先生も同じでしょ? 赤司先生にとってもシロちゃんは特別な ーーー」
俺は走り出していた。
「先生!シロちゃんまだ教室に鞄あったから!」
長谷川の力強い声を背後に、俺は足を速めた。
教室。まだ構内か。
走りながら、俺は自分を責めた。
何を迷っていたんだ、俺は。
約束したじゃないか、クリスマスデートを。
俺からの一方的な約束だけど、俺は真白ちゃんを喜ばせたかった。
寂しげで、いろんなことを我慢しているようなあの子を 笑顔にさせたいと思っていたんだ。
それなのに……泣きそうな顔をさせてしまった俺は大馬鹿だ。
想い出の誰かに似ていたからじゃない。
君に出逢って恋をしたんだ。
他の誰でもない、秋野真白というたった一人の存在を………
愛したいと思った。
それだけなんだ。
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