ようこそ、ボランティア部へ

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 私立蓬莱高校。県内でもそこそこ有名な進学校で、『文武両道』をスローガンに掲げるくらい部活動にも力を入れている。  そんな蓬莱高校の廊下に、軽快な音楽に合わせて小刻みにステップを踏む男がいた。  一見、これだけ聞くとダンス部か何かだと思われるだろうが、その男の恰好は、とにかく凄まじかった。廊下を歩く生徒が、まるで蜘蛛の子を散らすように避けるくらいには。  「オウ、イエァ! チェケッ!」  下手なラップを口ずさみながら、腰を振って廊下を移動するその男の頭には、ド派手な金髪のアフロ。星形のサングラスを掛け、動くたびにギラギラと鬱陶しく輝く、胸元が大きく開いた銀色スーツ。  生徒たちは、遠巻きにこの異様な光景を眺めていた。  あまりの恐怖に、悲鳴を上げて逃げる生徒までいる始末。そりゃ、そんな男が廊下に出現したら誰だってビビるだろう。  「コラァッ! 何やってるんだ君はッ!?」  この緊急事態に教師が駆けつけ、アフロ男を注意する。  ――が、アフロ男はダンスに夢中で教師の存在に全く気付かない。    「イェアッ! ポゥッ!」  「き、貴様……今すぐそれを止めろッ!」  教師はさっきよりも大きい声で怒鳴った。  その声で、初めて怒る教師の存在を認知したアフロ男は、慌てふためきながらダンスと音楽を止めた。  「これは一体何の真似だ!?」  「いや、先生これは、人気者になれるって言われたので――」  「何わけのわからないことを言ってるんだ君は!? 制服に着替えた後、職員室に来なさいッ!」  そう告げた教師がいなくなると、廊下にいた生徒たちもクスクスと笑いながら、去って行った。  誰もいなくなった廊下に、ポツンと哀愁を漂わせながら立ち尽くす男。  その光景に、思わず込み上げた笑いを堪え、俺は男の肩をポンと叩いた。  「……まあ、その……ドンマイ」  「――ドンマイじゃねぇぇぇぇよッ! どうしてくれるんだこの状況!?」  発狂するアフロに、再び吹きそうになる。  「ぷっ……だって、その恰好で踊ってりゃそうなるわな……ぷぷ」  「お前がやらせたんだろぉぉぉ! 笑ってんじゃねぇぇぇッ!」  男は喉が張り裂けんばかりに怒鳴るが、そのたびにアフロが上下に跳ねる。  怒りながら笑わしてくるとは器用なヤツだ。  
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