もう一つの記憶

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結乃が営業1課に手伝いに来て、三日目の退社時刻を過ぎたころのことだった。業務とは関係ない、ちょっとした騒動が起こった。 誰がやらかしてしまったのだろうか、オフィスの隣の給湯室でお茶っ葉が派手にまき散らされていた。 「誰がやったの!!?」 お局を通り越したオバサンのベテラン事務員が、角が出んばかりに怒っている。だけど、誰も知らんふり。 「ホウキって、どこかにありますか?」 結乃が周りの女子社員に問いかけてみても、 「あんなに騒がなくても、今日はこの後業者が入るんだから、キレイにしてくれるわよ」 と、傍目で見ながら他人事とばかりに更衣室へと向かう。 こんな時、総務のオフィスにいたら、すぐにホウキを持ってきて掃除するところだけれど、慣れない部署だと勝手が違う。結乃はフロア中をあちこち走って、非常口のドアのわきにある掃除用具のロッカーを探し当てた。 ホウキは二本持ってきたのに、オバサン事務員は、手を出さずに文句を言うばかり。こんな時に限って、誰も給湯室には寄り付いてくれず、結局、結乃が一人で散らばったお茶っ葉を掃いて集めることになりそうだ。 結乃がため息をついたとき、結乃が動かすホウキの音とは違うリズムが聞こえてきた。ようやくオバサン事務員が手伝ってくれる気になったのかと、結乃はチラリと目を上げる。
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