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仕事ができる人間のところにはますます仕事が集まるものだが、敏生は〝できる人間〟なのだろう。オフィスの自分の席に戻ってきても、ほとんど休憩を取ることはない。インフルエンザで休んでる同僚の分の仕事までこなしているのだろうか、同じチームの事務職員が帰った後でも、ずっと残って仕事をしているようだった。
〝取りつく島がない〟とは、まさにこのこと。とても雑談で話しかけられるような雰囲気ではない。
これでは、合コンどころか、職場の女の子とも満足に話をする暇なんてないだろう。女の子との浮いた話がないのも納得できる。
ましてや、総務からちょっと手伝いに来ている女子のことなんて、気に留めるに値しない。
それでも、そこに敏生がいてくれるだけでよかった。オフィスを横切る彼を目で追って、デスクワークをする彼を視界の端に捉えて、普段の敏生を知ることができただけでも、結乃の心は満たされた。
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