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「………!!」
結乃は、その体勢のまま動けなくなった。目に見えていることがとても信じられなくて、掃除どころではなく立ちすくんでしまう。
「あら、芹沢くん!気が利くじゃない!」
オバサン事務員がそう言いながら、ホウキを持っている敏生の肩を叩いている。
結乃はハッと我に返って、再びホウキを動かし始めた。
突然のことに、心臓が跳ね上がってどうにかなってしまいそうだった。今自分は、掃除をしているのか、何をしているのか。ドキドキして意識が宙を浮いて、自分が自分でないみたいな感覚だった。
二人でお茶っ葉を一か所に集めると、結乃が持つ塵取りに、敏生がそれを掃き入れてくれる。
「お忙しいのに、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる結乃に、敏生は笑いかけることもなく、こう答えた。
「同期なんだから、俺に敬語を使う必要はない」
「……え?」
結乃が目を丸くして、敏生を見上げる。
「私のこと、……知って?」
あまりの思いがけなさに、結乃の言葉も途中で途切れてしまう。
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