もう一つの記憶

3/5
前へ
/27ページ
次へ
「………!!」 結乃は、その体勢のまま動けなくなった。目に見えていることがとても信じられなくて、掃除どころではなく立ちすくんでしまう。 「あら、芹沢くん!気が利くじゃない!」 オバサン事務員がそう言いながら、ホウキを持っている敏生の肩を叩いている。 結乃はハッと我に返って、再びホウキを動かし始めた。 突然のことに、心臓が跳ね上がってどうにかなってしまいそうだった。今自分は、掃除をしているのか、何をしているのか。ドキドキして意識が宙を浮いて、自分が自分でないみたいな感覚だった。 二人でお茶っ葉を一か所に集めると、結乃が持つ塵取りに、敏生がそれを掃き入れてくれる。 「お忙しいのに、ありがとうございます」 ペコリと頭を下げる結乃に、敏生は笑いかけることもなく、こう答えた。 「同期なんだから、俺に敬語を使う必要はない」 「……え?」 結乃が目を丸くして、敏生を見上げる。 「私のこと、……知って?」 あまりの思いがけなさに、結乃の言葉も途中で途切れてしまう。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

935人が本棚に入れています
本棚に追加