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「君は、こんなところ、昔と全然変わらないな」
と言いながら、敏生はホウキを結乃に渡してくれる。
「昔と……?」
と結乃が再び問いかけてみても、敏生はそれには答えず、そのままくるりと背を向けてオフィスへと戻っていってしまった。
敏生の背中を目で追って視界から消えても、結乃はホウキを持ったまま、敏生の言葉の意味を考えた。
大きな衝撃の後のドキドキとした胸の鼓動を伴いながら、ホウキをロッカーまで戻しに行ったとき、今日の出来事がデジャヴと思えるような、その〝昔〟の出来事を思い出した。
高校生のとき、まだ敏生への想いが芽生える前……。
結乃が生徒昇降口を出て帰っていたら、グラウンドからサッカーボールが飛んできて、通路わきに置いていた大きな植木鉢に当たって、ひっくり返してしまった。
幸い植木鉢には何も植えられていなかったが、ボールを追ってきたサッカー部員は、ボールだけ持って、派手に飛び散らせた土はそのままにして行ってしまった。
一部始終を見ていた結乃は、ハタと目の前の状況に気づいてしまう。そして、ため息をつくと、掃除用具入れからホウキを出してきて、飛び散った土を集め始めた。
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