ありえない失敗

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営業1課へは、あくまでもお手伝いなので、結乃のロッカーは総務部の方にある。着替えを済ませて、営業1課へ向かおうとしたとき、本当の上司から声をかけられた。 「インフルエンザも大分落ち着いたみたいだから、営業1課へは今日まででいいらしいよ」 これを聞いて、結乃の高鳴っていた胸も少々消沈する。 そうなのだ。営業1課にはずっといられない。敏生と同じフロアの空気を吸えるのも、今日で最後ということになる。 よほどの理由がなければ、結乃が営業の方へ異動させられることはないだろう。逆に、敏生が総務の方へ回されることも……、 ――……あるわけない。芹沢くんはエリートだもの……。 こんな裏方ばかりしている場所ではなく、敏生には会社を背負って働くような場所がふさわしい。 寂しい現実を認識して、結乃はキュッと唇を噛んだ。 ――それでも、芹沢くんには私を知ってもらえてたんだし……。 それを思うだけで、結乃の心の中にほのかな明かりが灯る。 それに、今日の一日はまだ残っている。この一日を大事にして精いっぱい頑張ろう。そう思いながら結乃はエレベータに乗り、営業1課のあるフロアのボタンを押した。
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