ありえない失敗

3/6
929人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
その日の昼下がりのことだった。外回りに出ていた敏生が課長に呼び戻されたらしく、それからバタバタと忙しそうに走り回っている。 緊急事態の様相に、結乃も息を凝らして様子を窺っていると、課長がちょうどオフィスの出入り口ところにいた結乃へ声をかけた。 「君、取り引き先が来てるから、お茶を二つ持ってきて!ミーティングルームじゃないよ、応接室にね!」 ――取り引き先が営業部へ来るの?普通は逆じゃない? と、結乃は不審に思ったが、いずれにしても敏生と関われる仕事。たかがお茶出しかもしれないが、少しでも敏生の役に立てると思っただけで、結乃のテンションは上がった。 お盆にお茶を二つ載せて、応接室に向かう。この部屋を使うということは、普通の打ち合わせではないということだ。 ノックをして中に入ったら、そこには部長もいて、その空気に潜む緊迫感に、結乃の浮かれた気持ちが一気に縮み上がる。 来客は、上司とみられる中年男性とその部下らしい女性。部長も課長も笑顔を作りながらも、とても神妙な面持ちをしていて、その緊張感が結乃にまで波及してくる。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!