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「……単刀直入に申し上げますと……」
結乃は、厳しい声色の上司の方の脇に回って会釈をし、その前のテーブルにお茶をそっと置く……。その時、結乃の指が茶托の端に引っかかって、湯呑をひっくり返してしまった。勢いよくお茶が流れ出して、上司のズボンにかかってしまう。
「もっ、申し訳ございませんっ……!」
焦った結乃はとっさに謝りを入れたが、焦るあまりにお盆の上にあったもう一つのお茶の方もひっくり返してしまい、
「きゃあ!熱いっ!!」
部下の女性が飛び上がる。湯呑が落ちるときに、お茶を女性の頭からかけてしまっていた。
「申し訳ありませんっ!!」
自分のしでかしたあまりの失態に、結乃はパニックになってどうすればいいのか分からなくなる。すると敏生が立ち上がって自分のハンカチを取り出し、
「失礼をいたしました。火傷をなさっていませんか?」
と、女性の濡れた髪や肩を拭き始める。課長も焦って、結乃を見上げて指示を出した。
「早く、タオルをお持ちして」
結乃は「はい」という返事もままならず、深々と一礼すると、応接室を後にした。懸命に走って戻り、あのベテラン事務員に助けを求める。
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