君の名前

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――あのとき、勇気を出して芹沢くんに話しかけてたら、もう少し違う〝現在(いま)〟になってたのかな……? 後悔しても現在は変わらないけれど、そう思ってしまうほど、結乃の恋は前にも進めず後ろにも戻れなかった。 物思いに耽ってしまった結乃の腕の力が緩み、茶トラの猫はスルリと腕をすり抜けていってしまう。 「ユノ!こんなところで何してるんだ?」 そのとき、結乃の背後からそう声をかけられて、心臓が跳ね上がった。聞き覚えのある、結乃の心を切なくさせる、この声――。 先ほどまで結乃の腕にいた猫が、明るい日射しの中で跳ねて行って、ランニングをしていたらしい一人の男に駆け上る。 「ここも、お前の遊び場なのか?ユノ?」 愛おしそうに猫を抱いて、優しい声をかけている男に、結乃は思わず言葉をかけていた。 「……芹沢くん?」 思いもよらず、そこに結乃がいることに気がついて、いつもはクールな敏生の顔が、一瞬にして真っ赤になる。
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