茶トラのネコ

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「……ごめんね。私には、君を幸せにする力がないの……」 結乃はそう言いながら、車通りの多い校門前から校内へと子猫を抱いてきて、雪をしのげる掃除用具入れの隅へ自分のマフラーを敷くと、その上にそっと子猫を置いた。 でも、それでも結乃は帰ることができなくて、校舎の陰から子猫を見守って、誰かがその子を拾ってくれるのをひたすらに待った。 ニャーニャーと、子猫の声が響き渡り、何人もの生徒が足を止めて子猫の存在を確かめてくれた。二人組の二年生の女の子たちは、子猫を抱き上げてしばらく遊んでいたけれど、結局元のマフラーの上に子猫を戻して、帰宅してしまった。 ずいぶん待ってみたけれども、誰もその子を連れて帰ってはくれない。 このままでは、あの子猫は凍えてしまう。子猫を見守る結乃の目に、涙が零れ始める。 ――やっぱり私が連れて帰ろう……! 結乃がそう覚悟を決めて駆け寄ろうとした時、一人の男子生徒が子猫の前に佇んでいた。――それが、芹沢敏生だった。 敏生は子猫を抱き上げ、愛おしそうに撫でてやっている。それから、マフラーを拾い上げるとそれに子猫を包み、ブレザーの懐に入れた。そのまま大事そうに抱えながら、その場を立ち去った。 普段は無愛想な感じの敏生が見せてくれた、子猫に対する柔らかい表情。このときが、結乃の中に淡い想いが芽生えた瞬間だった。
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