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それから何も状況は変わっていないまま、八年の年月が経ってしまった。
もちろん、ずっと敏生のことを一途に想い続けていたわけでもなく、楽しい大学時代を過ごす間には忘れていた時もある。でも、結局誰にも〝好きだ〟という感情を抱けなかったのは、ずっと心の奥に敏生のことが引っかかっていたからなんだと思う。
それがこの会社で再会できて、その想いをもう一度自覚した。
敏生のことは好きだけれども、彼は結乃のことを覚えていない。大衆に埋没してしまうこんな自分が突然告白しても、ドン引きされてフラれてしまうのがオチだ。それどころか、人気のある彼に周りを出し抜いて迫ろうものなら、顰蹙を買ってしまうだろう。
そんな結乃に、二度目の運命が訪れる。
寒い季節、社内ではインフルエンザが流行していた。特に営業1課では猛威を振るい、業務に支障が出るほどだった。といっても、派遣社員を雇うほどでもなく、そこで総務へ相談が寄せられる。何人か人員を割いてほしいとのことだった。
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