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「分かった、もういいや……」
何だろう。この倦怠感に虚脱感。
「ちょっと待って!」
事実を知り、半ば放心状態でフラフラと歩き出すと、後ろから長い腕にギュッと抱き締められた。
「仕事終わったら帰るから、待ってて?」
「帰るってどこに?」
「真陽んちに決まってるじゃん」
あぁ、何だったの? バカみたい。
そう思っても、やっぱり背中に感じる温もりが嬉しくて、涙がこぼれそうになって下を向いた。
「待ってないって言ったら?」
「待ってるよ真陽は。俺に大事なものくれたし」
「大事なものって?」
「大事なもの……真陽の全部。心も体も全部」
「……私の全部?」
あなたの欲しかった大事なものって……私自身、って事?
「俺本当に幸せ。あの時走ってよかった。
やっぱり待ってるだけじゃダメなんだ。救い主は自分の中にいるんだよ」
振り向いた私をもう一度抱き締めた彼が照れくさそうに笑う。
本当にそう、自分次第できっと未来は変えられる。
教えてくれて良かった。嬉しいよ、私だってもちろん幸せだよ。
だけどそれ、もう少し早く言ってくれれば、こんなに落ち込まずに済んだのに。
「……はぁ、疲れた、もうイヤ…」
「え? イヤなの? 俺の事嫌い?」
「ちがっ! ……ん~もうイヤ!」
「え? どっち?」
それが今年のアドベント。
あなたの腕の中から見た景色はそれまでとは全く違って……
チカチカ煩いイルミネーションも、吹き抜ける冷たい風も、全てがキラキラと輝いていた。
『アドベント・ラヴ』…Fin
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