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それから毎日、彼は私の前に現れた。
閉店間際に私を迎えに来て一緒に帰り、二人でご飯を食べて二人でテレビを観て笑って。
朝になると消えて、夜になるとまた戻ってくる。
誰かと寄り添う事がこんなにも暖かいなんて知らなかった。
これを“幸せ”と呼んでいいのかは分からないけど、彼は私に有り余るほどの愛情を注ぎ、私の中にどんどん染み込んでいった。
だけど……クリスマスが近付くにつれ、不安が過ぎる。
私気付いたんだ。
彼が本物の救い主、だとしたら……
「真陽ちゃん、明日どうする?」
「明日?」
大根の皮を剥いて、お米の磨ぎ汁でそれを下茹でしながら彼が言う。
「明日、クリスマスイブでしょ」
「そう、だっけ…」
だし汁を作って玉子を茹でながら、私ははぐらかす。
「ケーキ取りに行くでしょ? それで真陽ちゃんの仕事が終わったら買い物行って……」
「仕事終わるの遅いかも」
「え?なんで?」
「明日は店頭販売しなきゃだし、全部売れるまで帰れないし。だから……」
一生懸命、はぐらかす。
「そっか。じゃあ俺ケーキ売るの手伝うよ!」
「明日は無理だよ、亮だって忙しいでしょ? サンタクロースRなんだもん」
「俺は定時で上がりますよ? 主に昼間しか活動しないサンタですから」
「ケーキだって、本当は誰か他の人のために予約したんじゃないの?」
「何言ってんの? 真陽ちゃんと食べるためだよ? だからどれが好き?って聞いたんだから」
もう、なんなの?
「そんなはずないじゃない」
「真陽ちゃん?」
彼がサンタクロース、だとしたら……
「もういいよ……」
彼の胸に顔を埋めて腰に腕を回すと、彼は黙ったまま私をぎゅっと包み込んだ。
「亮?」
「ん?」
「ありがと」
「何? 急に」
「ううん。あ、ほら、おでん作ろ?」
「うん……」
溢れそうな想いを呑み込んで、二人で作ったおでんを食べた。
きっと彼がいなきゃ、二度とこんな味は出せないだろうなってくらい、悲しいのに、美味しいおでんだった。
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