8人が本棚に入れています
本棚に追加
私は何も知らなかった。
ううん、違う。知りたくなかったんだ。
「真陽ちゃん?」
「開けないで、お願い…」
私、開けたくなかったんだ、アドベントカレンダーの最後の引き出しを。
本当はずっと待っていた、救い主が現れるのを。
そんなのいるわけないなんて思いながら、誰かがこの平坦な日常から救い出してくれるのを。
でも彼が救い主って事は、今日で終わるって事。
だから…
「真陽?」
「……ごめ…」
何も知らなくて良かったんだ。
むしろ、何も知らない方が良かったんだ。
だから逢いたくなかったのに。
「どうしたの?昨日から何か変だよ?」
「なんでもないってば」
心配そうに私を覗き込んだ彼の首筋に、自分から腕を回して引き寄せる。
「もうサンタクロースは終わりでしょ?」
「あぁ、そうだね、俺もやっと普通の男に戻れるよ」
私の肩に顔を埋めた背の高い彼の、籠もった声が聞こえてきた。
「じゃああげる」
「…ん?」
「願いを叶えてくれたお礼」
困ったように私を見下ろす彼の頬に触れて、背伸びしてゆっくり唇を近づける。
「キス、して?」
「今?」
「そう、今。いらない?」
「……いるに決まってんじゃん」
込み上げる涙を堪えて私が笑うと、亮の瞳から笑顔が消えた。
「いいの? 本当にもらっちゃうよ?」
「うん…いいの」
今日で最後だから、最後の夜だから。
私の全部、あなたにあげるから。
最初のコメントを投稿しよう!