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「真陽!」
その声に顔を上げると、通りの向こうで大きく手を振る彼が見えた。
彼は大通りの横断歩道を渡って、人混みを掻き分けてあっと言う間に私の前に現れた。
「……どうして? どこから来たの?」
「ん? あそこのビル」
「……へ?」
息を切らし駆けてきた彼が、通りを挟んだ向かい側の雑居ビルを指差した。
私はまた、間抜けな声を出した。
「ごめん、今日は流石に仕事が終わんなくて。
どうした? 何かあった?」
「いや…って言うかなんで? あなた一体誰なの?」
「俺? えっと……」
スーツの胸ポケットから出てきた一枚の名刺。
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あなたの夢 叶えます
イベント企画 Dream Alive
代表取締役社長
岡辺 亮
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「何これ……」
「こっちが本物の名刺、この前のはイベント用。俺社長なの、あそこの会社の」
彼がもう一度指差した雑居ビルの三階。
その窓からスーツ姿の男性が数人、こちらを見て笑ってる。
「もしかしてあの人達、昨日ケーキ買いに来た……」
「バレた? あれがその他のサンタクロース。俺が頼んだの。真陽が定時で上がれるように」
……やっぱり。
「イベント企画の会社で、って言っても大学の同期で始めた会社だから、社員あれしかいないんだけど」
「はぁ……」
「今回は施設の子供達にプレゼント配ってたんだ。都に直接プレゼンして、正式にね、サンタクロースとして」
「へぇ……」
あぁそれでサンタ? なるほどね……じゃなくて!
「前に差し入れでもらったここのケーキが凄く美味しくて。で、気になって見てたら真陽がいつも鉢植え仕舞ってて。
俺仕事サボってあの窓からずっと見てたの、可愛い子だなぁって。
そしたらアイツらが、『クリスマスケーキの予約今日までらしいよ』とか嘘ばっか言うから俺焦っちゃって。ほら、俺が初めてここに来た日、覚えてる?」
「あぁ、うん……」
あなたがドアに激突した日ね。
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