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「どちらになさいますか?」
彼にパンフレットを広げて見せる。
そんなに焦らなくてもまだ予約はできるのに。そう思いながらケーキの説明をする。
「ホールケーキと、ブッシュ・ド・ノ…」
「君は? どれが好き?」
「……はい?」
顔を上げるとショーケースを挟んだ向かい側で、黒目がちな彼の瞳が私を真っ直ぐ見つめていた。
説明を聞きなさいよ。と思いながら、私も彼の顔を直視する。
「生クリームかショコラか、ベリー系のフルーツをのせたものもありますが」
「うん、君は? どれが好き?」
え? 私の好みで決めちゃうの? そんなんでいいの? って戸惑った。
だけど多分、言わなきゃ先に進まないみたいな雰囲気に圧され、仕方なく意見する。
「私はこのベリー系が好……」
「じゃあそれで」
「え? あ、かしこまりました」
被せ気味に言われて動揺しながらも、注文票を持って来てそこに必要事項を記入していく。
「お名前は?」
「僕? サンタクロースR」
「……はい?」
「あ、ごめんなさい! 本名ね? 岡辺亮です」
「岡辺様、ですね? 連絡先は」
「連絡先? 連絡先は……」
スーツの胸ポケットから出て来た一枚の名刺。
─────────────────
あなたの夢 叶えます
サンタクロースR
TEL090-××××-××××
─────────────────
一言で言えば怪しいしかない。
何だろう、まぁ便利屋さんみたいなものかな? なんて思いながら、その電話番号を黙って記入する。
「お日にちは」
「24日で」
「はい。……では24日、お待ちしております」
不備を確認し、お客様控えと名刺を渡して頭を下げた時だった。
「ねぇ」
「はい?」
「君の夢、叶えてあげるよ」
突然彼にそう言われて、私は「へ?」と、間抜けな返事をした。
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