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「ねぇ待ってよ」
「ごめんなさい、間に合ってますから」
「違うってば、話だけでも聞いて?」
「いや、本当に……」
閉店後、表に出ると彼が──サンタクロースRが待っていた。
そしてなぜか私の後をずっと着いてくる。
「何かないの? 夢。あるでしょ? 一つくらい」
「あったとしても、便利屋さんに頼むような事じゃありませんから」
「便利屋じゃないよ、サンタクロース! 君の願いはなんでも叶えてあげるから!」
君の願いはなんでも? なにそれ? 宗教の勧誘?
あぁ分かった。もしかして最終的に壺とか印鑑とか売りつけるあれ?
「もー本当に」
ピタリと足を止めると、彼も私のすぐ後ろで足を止めた。
「やめてください、私充分幸せなんで」
「あはは! 嘘だぁ?」
なっ、失礼な!
「本当に? ねぇどこが? どの辺が?」
「いい加減にしてください!」
とうとう頭にきて振り返った。
なのに。睨んでいるのに全く動じない。それどころか黒く澄んだその瞳は、吸い込まれそうなほど真っ直ぐに私を見下ろしていた。
「言うだけ言ってみてよ」
「……なんでも?」
「うん」
「じゃあ私の彼氏になってください」
「……へ?」
やだ、何言ってんの私、恥ずかしい!
唐突過ぎる願い事を聞いて固まった彼に背中を向け、またイルミネーションの中を歩き出した。
あぁもう……バカみたい。
「ねぇ待って、名前!」
「もぉ、しつこい……」
きっとあの瞳(め)のせいだ。
あの瞳でじっと見詰められると調子が狂う……
「待ってよ、なーまーえ!」
放っておいて欲しいのに腕を掴まれて、本当にうんざりして振り向きざま吐き捨てるように言った。
「真陽(まひる)ですけど? って関係ないでしょ?もう離してく……」
……嘘?
「今日から俺、真陽ちゃんの彼氏ね?」
「は……い?」
「……やべぇ。キマったな俺」
「は? 何……?」
意味が分からない、分からないけど現状。
なぜか私は彼の腕の中にいた。
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