8人が本棚に入れています
本棚に追加
「真陽ちゃんはどんな男がタイプ?」
「いや…」
「言ってよ、理想の彼氏」
「うーん、そうだなぁ。男らしくて優しくて…って、そうじゃなくて! もう本当に帰ってください」
どうしてかなぁ。本当に家まで着いてきたよ?
マンションの部屋の前で、彼の背中を強めに押す。
「ちょっと待って、俺彼氏だよ? 入れてよ部屋」
いやいやいや。確かにタイプだよ? 背も高くて鼻筋もシュッとしてて、私の理想に近いよあなた。
だけど入れるわけないでしょ? 初対面の怪しい男を!
「お願い。真陽ちゃん、俺腹ぺこ……」
なのに……
バッグを漁り鍵を探している私の背後で弱々しい声がして、もう面倒くさいからいっかって、弱い自分がドアを開けた。
印鑑とか壺ならきっぱり断ればいい。だって勝手について来たのはこの人だし、彼の売上? に私は関係ない。
そう自分に言い訳して結局、彼を部屋に入れた。
……に、しても。
「ねぇ真陽ちゃん、部屋着貸して?」
……はい?
「ねぇ、今日の晩ご飯なに?」
What?
「真陽ちゃん可愛いな、食べちゃいたい…」
なぜ?!
どうして私がこの人のために部屋着を用意して(寸足らずだけど)、この人のためにパスタを作って、この人に後ろからハグされながらお皿洗ってるの?
「あの、岡辺さん……」
「亮でしょ?」
「…りょ、亮? もう充分味わったから。彼氏の役、やってくれてありがとう。でももう大丈夫だから」
振り返って、彼の胸を押す。
こんな風に誰かの温もりを感じたのは何年ぶりだろう、なんて考えながらもやっぱり強めに押す。
「俺が大丈夫じゃないよ」
「は?」
「役じゃないし」
「へ?」
ほら、また間抜けな声が……
「好き」
「や、何言って……」
「好きだよ」
「も、…やめて」
だからどうして?
そんな言葉とは裏腹に、シンクに追い詰められた体は身動きできず、抑えられた頬が熱を持つ。
「好き…」
そう何度も甘く囁かれ、まるで魔法にかかったように、彼の瞳に吸い寄せられて素直に彼の唇を受け入れた。
最初のコメントを投稿しよう!