Advent Love

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って、ちょっと待った! 「っ…やめて!」 (ガタンッ!) 「痛っ……」 我に返って突き飛ばした。食器棚の前で尻餅ついた彼が腰を押さえながら私を見る。 「ひどいよぉ」 「ひどいのはどっち? 勝手にキスしといて」 「だって俺彼氏じゃん」 「彼氏じゃないでしょ? 仕事でしょ? 大体サンタクロースRって何? 他にもいるの? お仲間が」 「いるよ? JとNと、あと…」 「目的は? サンタクロースの目的は何?」 「え? 恵まれない子供達にプレゼントを配って…」 「恵まれない子供達? 私は恵まれない子供ではありません」 「だからこれは仕事じゃないって」 「だったら何? ボランティア? バカにするのもいい加減に……」 え? なんで? どうしてあなたが泣くの? 頭を抱えた彼の頬を ポロポロと涙が伝っていく。 「こ、今度は泣き落とし?」 「違う、悲しいんだよ。信じてくれないし、そんなにガンガン言わないでよ……」 信じてくれないしって、信じられるわけないじゃない。いきなり現れて、今日から彼氏ね! なんてそんな話あるわけないし。 「泣かれたって私も困るの。壺とか印鑑とかいらないし、そんなお金ないし」 「壺? 印鑑? 何の話?」 「とぼけたって無駄よ? 目的はお金でしょ?」 「お金なんかいらないよ!」 ムキになって私を見上げる彼は、子犬みたいに潤んだ瞳で膝を抱えてボソリと呟いた。 「でも一つだけ、真陽ちゃんの一番大事なものが欲しい」 「大事なものって……やっぱりお金?」 「だから違うってば、お金なんかよりもっと大事なもの」 顔に掛かる長めの前髪。 涙を堪えて笑った顔があまりにも綺麗で、また魔法にかかったように動けなくなった。 「お願い、信じて」 腕を引かれ崩れるように彼の前に座ると、また強く抱き締められて、さっきより優しくて甘いキスが降ってきた。
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