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信号待ち
ちょっと近所のコンビニへ。
その途中の交差点に、信号待ちをしている子供がいた。
朝と夕方は交通量が多いけれど、今くらいの時間は、人も車もほとんど通らない。なのにその子供はなかなか変わらない信号をきちんと待っている。
マナーがいいなと思いながら横を過ぎた。
帰り道、子供はまだ信号を見上げていた。
信号待ちではなく、ここで誰かを待っているのだろうか。それにしては、ひたすら信号ばかりを見ている。
信号が青に変わる。でも子供は動かない。その様子につい言葉がこぼれた。
「青だぞ。渡んねーの?」
それを口にした瞬間、子供がこちらを向いた。無表情な顔が真っ赤に染まる。
「青でも車は走って来るんだよ。だから僕は渡れないんだ。渡ったら、またはねられちゃうから」
そう言い残し、子供は消えた。
…その交差点で何年か前、信号無視の車が子供をはね、死なせてしまった事故があったと翌日知った。
ああ、それは確かに、青信号でも渡る気にはならないだろう。
あれからあの子供を見かけることはないけれど、あの時の姿と言葉を戒めに、俺はあれ以来、交通ルールを厳守している。
信号待ち…完
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