ペテン師の暇潰し

「夢の中へようこそ。自己紹介が遅れました。ワタクシ、ジルと申します。以後お見知りおきを……。」

　ジルと名乗った男は、右手を体の前に持ってきて深々と頭を下げる。その様子は執事が主を出迎えているようにも見える。

「貴方はこの夢の世界に迷い込んでしまったようですね。不思議な感覚でしょう？　今、ここにいる貴方は肉体から離れた精神だけの存在なのです。」

　ジルの言葉から察するに、どうやら夢の世界、おそらくは小説作品の中に精神だけが取り込まれてしまったようだ。
　しかし、大切な日常生活がある。どうにかここから抜け出せないものか？

　そう思いながらも精神が分離してしまった体は、操り人形のように勝手に【次のページ】のボタンへと指を伸ばしていく。

　そして、自然と指がかかり、クリックした。