ペテン師の暇潰し

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「サブリミナル効果ってご存じですか?」  ジルの不意な問い掛けに、記憶の引き出しを探し始める。また意識の底へと沈んでいく。  するとジルの表情が今までとは一変して、細い目はそのままに口の端が吊り上がった。 「もう、貴方はワタクシの罠に掛かっているんですよ。」  気がついたら次々とページを捲っている。意識は作品の中にあるが、それを進めているのは意識と切り離された自身の体だ。 「サブリミナル効果とは、意識と潜在意識の境界領域より下に刺激を与えることによって表れる効果の事です。」  ジルはさらに言葉を続けていく。 「貴方の意識はこっちの世界にありますが、貴方の目はきっと今、画面をボーッと見ていますよね。その画面、貴方が気付かないほどの一瞬だけ、とある画面に切り替えているんですよ。何度も……何度もね。」  パチンッ  突然、ジルが指を鳴らす。渇いた音が耳に残る。 「今のが仕上げです。貴方に催眠を掛けました。貴方の潜在意識……つまり無意識は、認識不可能なほど一瞬の点滅を繰り返す画面を見ているのです。これがサブリミナル効果です。さて、無意識に見せられているそれは、どんな画面なんでしょうね? しっかりとその画面を見ているのに、貴方は全く分からない。ヒント、文字が書かれています。」  その言葉に、必死に考えてみるも自分の無意識がどんな文字を見せられていたのか、見当もつかない。ただ、得体の知れない恐怖だけが込み上げてくる。 「私が次に指を鳴らせば、貴方は無意識に読み取っていたその画面の文字……つまりは私の命令を実行する。貴方、今からどうなっちゃうんでしょうねぇ?」  ジルの口の端が今までにないほど吊り上がる。  【次のページ】を押したら危険だ。本能では分かっているのに、本能という無意識はすでに奴に支配されている。  生存本能が警鐘を鳴らしている。  この上ないほど大きなサイレンが鳴り響いている。  しかし……抗う事が出来ない。 指は勝手に【次のページ】ボタンへと向かい、ダメだと分かっているのに押してしまう。
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