序章 For you

4/5
前へ
/14ページ
次へ
「分かっています。ですが、中尉の怪我がありますし、せめて援軍を――」 「――いい加減にしろ!」  男の突然の怒号に女はビクリと震えた。 「お前が俺を心配してくれるのはありがたい。だが、優先事項を考えろ。今回の任務はあくまであいつの奪還だ。軍人なら、任務遂行が一番大切だって分かるだろ? あいつがいなくちゃ俺らはジリ貧になるだけだ。仲間の為、守るべきものの為、あいつの奪還を今は一番に考えろ!」  それに、と言って男の声色が優しくなる。 「あいつに一番会いたいのはお前のはずだ。こんなところで俺の心配をしてないで、あいつのことだけを考えてろ」 「……はい!」 「なら行くぞ!」  二人は小銃を握り、一気に目的地に向かって走り出した。  しかし、敵の攻撃は06式簡易型電磁砲だけではない。四方から戦闘ロボや自律式指向性82ミリ迫撃砲(オートハンマー)など様々な敵の攻撃が二人を襲う。 「くっ……」  身を守る為にどこかに隠れるということはしない。ただ、ただいち早く目的地にたどり着く為、二人は走り続けた。  すると、白いひと際巨大な建物が見えてきた。その建物こそ二人が目指していた場所である。  しかし、その行く手を阻むように十体ほどの蜘蛛型自律保安ロボット(スパイダー)がわなわなと建物から出てくるのが見えた。 「もうすぐなのに……!」  正面の敵の出現に対し、憤りを現わす女だが、 「敵さんも相当行かせたくないみたいだな」  男の言葉を聞き周囲を見渡すと、正面だけではなく、四方を様々な保安ロボットに囲まれていた。 「譜月、俺はここでクソロボット共の相手をする。お前は正面のスパイダーを倒して、そのまま中に入れ」 「ですが!」 「俺のことは気にすんな! 伊達に中尉って階級を貰ってねェからな!」  残る右腕で小銃を撃つ男。  男の身に心配を覚えたが、先の『優先事項を考えろ』という言葉が頭の中で反芻する。彼の意を汲みためにも行動は決まっていた。 「分かりました。ご武運を!」  男をその場に残し、女は建物に向かって走り出した。 「邪魔です!」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加