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腰に携えた手榴弾のピンを口で抜き、スパイダーに向かって投げつけた。
だが、手榴弾は敵に着弾する前にレーザーによって撃たれ、空中で爆発してしまった。だが、そのお蔭でロボットたちと女の間には煙幕が張られることになる。
女は駆けながら、持っている小銃をロボットたちに向かって撃ちだした。弾を惜しむことなく。
弾幕と煙幕に乗じて、ロボットの間を駆け抜ける。そして、建物の中へと入り込んだ。
「流石はエヴェレット三世の研究を受け継いだ科学者たちの施設、と言ったところですか」
建物に入った女は、ぐるりと建物内を見渡す。
ヒュー・エヴェレット三世。一九五七年に他世界解釈、つまりはパラレルワールドの存在を自身の論文の中で定式化した人物である。この研究所はそんな他世界解釈を実用化しようとする研究者たちの梁山泊であった。
しかし、この戦の為か、研究所はおろか周辺地域に研究者らしき人物の姿はない。
人の気配がない建物の内装は独創的なものであった。壁自体が全てタッチパネルになっており、天井は青を基調としている。しかし、せっかくタッチパネルもこの地の電気が断絶されているため、使用できない。
「装置は三階にあるはず……」
虚空に浮かぶパネルに表示された情報を確認しながら、女は階段を上って行く。
そして、女はようやく目的地の一室に辿り着いた。広い室内の中央には、人が入れるほどの大きさのカプセル機器が三つほど置いてある。それこそ目的の物なのだ。
ここまでずっと駆けてきた女は、乱れた息を整えながら、各カプセルに隣接するコンピューターの一つを操作し始めた。
しかし、コンピューターには妨害用のプロテクトが何重にも張り巡らされていた。
「時間は無いのに……! 早くプロテクトを解除しないと」
何時また敵がやって来るか分からない。投影式のキーボードを素早く打ち込んでいくと、コンピューターのパネルにとめどなく文字が並んでいく。
そして、数分後――。
「出来た!」
画面には〈protect clear〉の文字が表示される。
女は稼働準備を済ませると、小銃を捨て、カプセルの中へ入る。
カプセルが閉まると、低い機械音が聞こえてくる。カプセルが作動している証拠だ。
女は顔に笑みを浮かべて呟いた。
「――今、そちらに行きますから。シンさん」
瞬間、カプセルは白い光に覆われた。
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