第一章 「帰りましょう」

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 二〇四〇年、日本――。  技術の発展というのは、まさに日進月歩である。  一九〇五年にアインシュタインが一般相対性理論を発表して早百四十年。今日の世界では人工知能とITが大きく発達し、人々の生活に無くてはならない存在となった。 「はぁ……」  そんな時代に生きる大学生・伊庭一心(いばいっしん)は、病院を出ると、青空に浮かぶ浮遊型街頭ビジョンに目を向け、息を吐いた。  ビジョンには、最新の市販型アンドロイドのコマーシャルが流れている。このアンドロイド産業も近年隆盛を極めている産業の一つだ。 「今回も原因は不明かぁ。医療も発達したこのご時世で、原因不明の頭痛に悩まされる俺って何なんだろう」  二〇二〇年代半ばまで治療不可能と言われていた糖尿病や末期ガンも、今では医療技術の発展により治すことが出来る。  それにも関わらず、一心は原因不明の頭痛にここ三か月悩まされていた。病院代もバカにならないが、頭痛を放っておくのも不安だ。 「来週は他の病院に行ってみるか」  そうごちり、一心は自身が通っている大学へと足を向けた。  そこでは、数か月に一回研究発表がある。その準備をするため、本来ならば研究室に籠っていたいのだが、突発的に起きる頭痛があっては集中が出来ない。しかし、その悩みの種を幾度病院で検査してもらおうと、『原因不明』の烙印が押されるだけであった。  頭痛覚悟で研究室へ入り、席に座った一心だが、 「ん~」  頭痛とは別の問題で頭を抱えていた。右手で髪を掻きながら、唸る。  二十畳ほどの室内に数多の机と椅子。室内後方のスペースには様々な工具や機器などが散在している。机のパネルに表示されているのは、一心が作ろうとしている新作アンドロイドの設計図だ。勿論女性型である。 「なーにしてんの?」  設計図のチェックをしていると、背後から女の声が聞こえた。振り返ると、 「げっ、譜月!」  艶やかな藍色髪の女性――幼馴染の御厨譜月(みくりやふづき)が、一心の両肩に手を置きながらパネルを覗き込む。 「『げっ』って言うな、『げっ』って。それに、こんな真っ昼間から研究室に籠ってると、健康に悪いと思うけど」 「俺は今忙しいんだよ。用件あるなら後にしてくれ」
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