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 ナイナイは軽い足取りでピートの部屋に入り、ベッドに横たわる彼を起こした。 「ピートは僕を使い魔だと認めるべきだ」 「ニナの使い魔でいたいんだろ」 「そりゃね。でも、まあ……」  ナイナイは言い淀みながら自分の胸を押さえる。 「……ここにニナがいる」  いたましげに見上げる少年に、ナイナイはにこっと笑顔を見せる。 「ニナがどうして死んだか知ってる?」  ピートはきゅっと唇を引き結ぶ。見上げる瞳に怯えがにじむのは、薄暗い部屋でもナイナイには見える。 「僕が『主人殺し』と呼ばれているのは?」 「――聞いた、協会で」 「それで? 怖くて僕から遠ざかりたい?」  ニナ・グレイは、移動の魔法陣作成の天才だった。魔法協会本部で何度も迷子になる方向音痴なのに、彼女の描く地図は精緻だった。  持てる力を惜しみなく使いたい彼女を、快く見守るものばかりではない。魔法協会に追いつめられたニナは姿を消した。  ようやく見つけたニナは、彼らの目の前で岸壁から飛び降りた。波しぶきにも洗えないニナの手の甲についた血を、ナイナイは拭ってやろうとしたのだ。  使い魔が主人を害することは許されない。血肉を食らうことはもってのほかだ。  准将たちが経緯を説明し、情状酌量を求めても、魔法協会はナイナイがニナの血を舐めたことを裁いた。大魔女の使い魔筆頭の息子が、天才と呼ばれた主人を殺したという噂が耳目を集め、真相を知るものは口を閉ざした。 「ニナが好きなんだ?」 「そりゃね。ニナがいない世界なんてどうでもいい。ピートの雨で流されればいいのに」 「そんな大きな魔法は使えないよ」 「じゃあ、どんなひどいことしたら、溺れ死にしそうな罰を受けるんだ?」 「人が死んだ」  ピートはまっすぐに見つめ、あどけない声で言う。 「オレの降らせた雨のせいで、土砂崩れが起きて」
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