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8
ナイナイは軽い足取りでピートの部屋に入り、ベッドに横たわる彼を起こした。
「ピートは僕を使い魔だと認めるべきだ」
「ニナの使い魔でいたいんだろ」
「そりゃね。でも、まあ……」
ナイナイは言い淀みながら自分の胸を押さえる。
「……ここにニナがいる」
いたましげに見上げる少年に、ナイナイはにこっと笑顔を見せる。
「ニナがどうして死んだか知ってる?」
ピートはきゅっと唇を引き結ぶ。見上げる瞳に怯えがにじむのは、薄暗い部屋でもナイナイには見える。
「僕が『主人殺し』と呼ばれているのは?」
「――聞いた、協会で」
「それで? 怖くて僕から遠ざかりたい?」
ニナ・グレイは、移動の魔法陣作成の天才だった。魔法協会本部で何度も迷子になる方向音痴なのに、彼女の描く地図は精緻だった。
持てる力を惜しみなく使いたい彼女を、快く見守るものばかりではない。魔法協会に追いつめられたニナは姿を消した。
ようやく見つけたニナは、彼らの目の前で岸壁から飛び降りた。波しぶきにも洗えないニナの手の甲についた血を、ナイナイは拭ってやろうとしたのだ。
使い魔が主人を害することは許されない。血肉を食らうことはもってのほかだ。
准将たちが経緯を説明し、情状酌量を求めても、魔法協会はナイナイがニナの血を舐めたことを裁いた。大魔女の使い魔筆頭の息子が、天才と呼ばれた主人を殺したという噂が耳目を集め、真相を知るものは口を閉ざした。
「ニナが好きなんだ?」
「そりゃね。ニナがいない世界なんてどうでもいい。ピートの雨で流されればいいのに」
「そんな大きな魔法は使えないよ」
「じゃあ、どんなひどいことしたら、溺れ死にしそうな罰を受けるんだ?」
「人が死んだ」
ピートはまっすぐに見つめ、あどけない声で言う。
「オレの降らせた雨のせいで、土砂崩れが起きて」
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