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ナイナイから笑みがこぼれた。
「――なんだ、人殺し仲間じゃないか」
「全然違う」
「違わない。『ナイナイ』と呼ぶくらいには仲良くしようぜ」
「……どうして、ニナはそんな名前をつけたんだろう?」
ピートの目がそらされ、伏せられる。
「ものを隠したり、失くしたときの赤ちゃん言葉だ」
「意味なんてどうでもいい。ニナがくれたものだから、僕には大事なものだ」
「大事なものを持ってるし、名誉挽回のチャンスを与えられるし、君、すごく価値のある使い魔なんだな」
「大切にしたくなった? 僕を助けてくれてもいいよ」
「オレにできることなんかないよ」
ナイナイは本の見返しに爪を立てた。薄く糊付けされた紙は乾いた音を立てて剥がれた。
本に封じこめられていたのは、折り畳まれた紙だった。緑がかったセピア色の魔法陣は空白が多く、制作途中のように見える。
「どこにでも好きなところに行けるんだって。人のいない山のなかでも、よその国でも」
「ニナの?」
ナイナイはにやりとした。
「すごいな」
「僕のご主人だからね」
ナイナイはベッドの脇にピートの靴を揃えた。
ピートは准将から借りたままのカーディガンをつまんで、首をかしげた。
「着てけよ。あの人、似たような服はいっぱいあるんだ」
もそもそとカーディガンに袖を通し、シーツごと毛布を羽織って、ピートは寝ぼけている三毛猫をつかむ。
散らかったピートの私物をトランクに押しこんで、ナイナイはベルトを締めた。
「どこに行きたい?」
「ナイナイは?」
「海はいやだな」
「オレもやだ。雨が降ってないところがいい」
「そうだな」
ナイナイは主人の手首を握り、床に広げた魔法陣を踏んだ。ピートもそれに続いた。
一人と二匹の姿は消え、魔法陣から白い煙が立ちのぼった。
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