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 アジールで使うものは、魔法協会から支給される。贅沢をしなければ、それでこと足りるのだ。  ナイナイとピートは連れだって、小麦粉と塩を貰いに行った。二人の関係が良好であることを協会に示すためだ。さすがに今日のピートはパジャマではなく、准将の黒いカーディガンを羽織っている。  アジールに戻るために駅に行くと、係が席をはずしていた。 「ちょっと息抜きをしよう」  ナイナイはピートを外に連れ出した。  魔法協会は王都の行政区域内にある。大きな広場を囲むように主要機関が立ち並んでいるのだ。  円形広場には平日でも露店が出ている。人出に気後れしているのか、ピートはナイナイに指が触れるほど近付いていた。  激しくセリにかける声が行き交う一画があった。男たちが幾重もの人垣を築いている。 「あれは?」  ピートは少しだけ背伸びをする。  ナイナイも爪先立ちをした。 「――猫だ」  唾を吐く勢いでうめいた。  初老の血色のいい男の前に置かれた木箱で、片手でひねり潰せそうな子猫が震えている。 「どんな猫? 百万とか言ってるけど」 「三毛猫、オスの」 「珍しい品種?」 「オスの三毛ってだけで珍しいんだ。船に乗せたら沈没しないとか言われてる」  きっと二百万はくだらないよ、とナイナイは続けた。 「高値で取り引きされたって、猫の取り分はないもんな。餌に困らない生活ができれば、それはそれで幸せかもしれないけど」 「猫の幸せって食べものだけ?」 「まさか。猫にもそれぞれ好みがある。僕は赤い巻き毛の女の子の膝の上で眠りたい」  ナイナイはピートを急かして協会に帰った。  駅の当番は不在だった。近くにいた魔女にお茶をふるまってもらったり、ピートがトイレに行って迷子になったりして、ナイナイは退屈しなかった。
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