1/1
前へ
/14ページ
次へ

 翌日、王都は豪雨に見舞われた。  日付が変わるころ小止みになり、朝には薄日が射した。  ピートは屋根裏部屋のベッドから出てこない。ベーコンと卵のサンドウィッチを用意しても、いらないと青白い顔で言う。 「おつかい、頼んでもいい?」 「いいよ」  依頼の奇妙さに首をひねりながらも、頼られたことはナイナイの気分を良くした。  駅を使って魔法協会に飛んだ。  ピートが簡単に描いた地図を手に向かったのはパブだった。煙草とコーヒーと煙草のにおいがこびりついた店である。 「これ、頼まれた」  鏡のように磨かれたカウンターに、ピートから預かったメモを開いて見せた。  店主はずりおちた眼鏡越しにそれを一瞥して、輪ゴムで束ねた紙幣の束を二つ出した。 「これは?」 「聞いてないのか? 昨日のサッカーの配当だよ」 「畜生! 雨中なんてそうそうねえのによ」  止まり木でコーヒーを飲んでいた男が、さして悔しそうでもなく言う。 「賭けなんて、勝つか負けるか引き分けなんだよ。兄さんとこの坊主は予言者か? 雨で流れるってチャリ銭置いてった」 「坊主の一人勝ちだよ。お兄ちゃん、早く帰んな」  親切ごかしに店主が追い立てる。 「追剥に遭わねえようにな」  客のからかいから肩をいからせて、ナイナイは外に出た。  紙袋に入れてもらった札束をジャケットの内に抱えこんだ。店を出たところから、後をつける気配があった。  協会まで一気に走り抜けるために、ナイナイは一度足を止めた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加