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ナイナイは眉間に皺を寄せた。
「こんにちは、准将」
「我らが弟も元気そうね」
「今度はどんなオイタをしたの?」
姉たちは口々に挨拶し、クッキーを差し出す。ナツメグとシナモンのにおいは、ナイナイの皺を深くした。
「マリマリ、邪魔してすまない。ピートが魔法を使った」
准将は彼女たちを無視して、マリマリに報告する。
「ピートの様子は?」
「疲れて起き上がれなかった」
「被害は?」
「数値は後で算出します――サッカーの試合が中止になるほどの雨でした」
「ネーブルとマンデリンの試合!」
姉の一人がわめいた。
「楽しみにしてたのに! ピッチが海みたいだったって!」
他の姉妹が異口同音に揶揄する。
「賭けてたの、デイジー?」
「賭けてたわね、デイジー?」
「賭けてたわよ、ファンのたしなみとして」
デイジーはツンとむくれる。
「ナイナイ、あんた、本当についてないわね」
別の姉さんが紅茶のカップをくれる。
受け取ってしまったナイナイを、准将は睨んだ。
「運不運の問題じゃない。ピートを止められなかったナイナイが悪い」
「そういえば、ナイナイの新しい名前を聞いてないね」
マリマリは手ずからお茶を注ぐ。
「ピートはナイナイに名前を与えていません」
「思いつかなかったのかしら」
「呼びやすい名まえなんていくらでもあるのねえ」
「そうそう。『主人殺し』とかね」
姉たちの言葉は、ナイナイは微笑ませた。
「名前がないなら、ナイナイは正式な使い魔ではないし、監督不行届きは責められない」
したり顔で言う姉の髪は短い。
准将は、猫から差し出されたカップを手で押しやった。
「アジールの主人は、協会の魔法使い全てだ。名前があろうがなかろうが、ナイナイはピートの猫だ」
「固いね、准将は」
マリマリがつき出したカップを、准将は拒むことができない。
「ピートは自分の罰がわかっている。ナイナイには別の罰をやろう」
着席のままマリマリは爪先で地面をタップした。
襟首を引っ張られるように、二人は協会本部に戻された。
二人をちらっと見た駅の係は手を突き出した。
「それ、マダム・ガーデニアのお気に入りのカップよ。返しておいてあげるから、クッキーちょうだい。猫には毒だわ」
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