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「それじゃ、これ鍵な。別にのんびりしてて構わないけど、帰るならポスト入れておいて。」
「あ、…うん」
掌に乗せたスペアの鍵と俺を戸惑い気味に見比べる唯を残して部屋を出た。
扉が閉まる直前に聞こえた“いってらっしゃい”に、何故だか少しニヤける。
なんだったんだろ、あいつ。
きっともう会わない
正体不明のあいつ
エロくて無邪気で能天気で
でも何処か寂しげな、捨て犬みたいな雰囲気の。
「あれ?お前朝帰り?」
揺れる電車の中
怠そうに吊革に掴まる声の主は同期の長谷川。
別に待ち合わせてる訳じゃないけど
始業時間が一緒なんだから当然ほぼ毎日電車で会う朝の顔。
「違うけど。なんで」
「いやめっちゃいい匂いしたから」
「あー。朝風呂入ったから?」
「へー。珍しいな」
それ以上何も聞かずにスマホを弄り始める長谷川は、別に気が利く奴な訳ではなくて、
ただ他人に無関心なだけ。
だけどそんな長谷川に心の中でこっそり感謝した。
だって今何故かと聞かれたら俺
冷静に嘘つける自信、無かったから。
「……シュウ」
「え?」
現に今だってちょっと昨日の事思い出しただけで
「…顔面、崩壊してるぞ」
もうなんか、ヤバイのに。
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