第1話

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「…あれ」 唯が置いてったであろうスペアキーを取ろうと覗いたポスト。 中には不要なチラシやDMばかりで 肝心の鍵は入っていなかった。 まさかあいつ…持って帰ったの? まあスペアだから困りはしないけど… やっぱり信用するんじゃなかった。 得体の知れない変な奴の事なんて。 冷静になってみれば家の中だってどうなってるか分からない。 仮住まいみたいなもんだから貴重品なんて大して無いけど。 全部嘘だったんだろう。 歳も名前も、 寂しそうな笑顔も 縋るような上目遣いも。全部。 もうどーだっていいや。 あー酒買ってくればよかった。 なんて、 心の中だけだって、唯に文句言ったことを 後悔したんだ。 「っ、あ…のっ、おかえりっ」 玄関の前でモジモジしながらおかえりと、 「……ただ、いま?」 「うん。おかえりなさい」 出迎えてくれた瞬間に。
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