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「カズくん、おかえりなさい!」家に帰ると、裕美が満面の笑顔で彼を迎え入れた。
今では2人は伊豆の豪邸で暮らしている。仕事用に六本木のマンションを借りているが、用事がない限り、そこに行くことはない。
裕美は彼の元に戻ってきた。和弘と別れた後、裕美は実家に戻り、地元で不動産業を営む男と結婚した。だが、結婚生活はうまくいかなかったようだ。2人で暮らし始めて数カ月もすると、その男は酒を飲んで暴れるようになり、裕美に暴力を振るった。流産をきっかけに彼女は離婚を決意したという。
和弘は以前のように彼女を愛することができなかった。何よりも我慢できなかったのは、裕美が「細雪」を好きだったことだ。
「あなたの歌は私には難しすぎたけれど」彼女は言う。
「細雪は大好き。とってもいい曲よね」
その言葉は嘘でも、お世辞でもないことが分かった。心から「細雪」を愛しているのだ。裕美は料理やシャワーの最中に、本当に楽しそうに「細雪」を口ずさんだ。
それがどうしても許せず、和弘は裕美に事あるごとに辛くあたった。
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