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パリでの公演が行われた夜、和弘は宿泊地のホテルで、ある女優から手紙を貰った。
彼女の名前はアンジェリカ・マジョリーナ。和弘はその女優のファンだった。数年前に映画で彼女を見て、ひと目で恋に落ちてしまったのだ。
手紙には女優の部屋番号が書かれていた。
和弘は裕美には内緒でその部屋に向かった。
部屋の中でアンジェリカが待っていた。
彼女は薄い絹のようなローブに身を包み、ベッドにひとり横たわっていた。
彼と目が合うと、アンジェリカは微かに微笑んだ。
「あなたのうた、とてもすき」彼女がたどたどしい日本語で言った。
「歌って。そしたら、なんでもいうことを聞いてあげる」
「何を歌えばいい?」和弘は聞いた。それは最後の抵抗だった。
「SASAME-YUKI」
アンジェリカは指先で唇を拭い、和弘を妖艶な目で見つめて言った。
「もう嫌だっ...!!」
和弘は叫んだ。そして壁にもたれたまま、ズルズルとしゃがみこんだ。
「疲れた......」
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