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――ああ、この半生感と小魚風味が堪らない。
純平は幸せな気分で晩飯のキャットフードを味わった。
外は酷い雷雨だが、誠司がバイトから帰ってくると、それだけでホッとした。排泄を猫トイレでちゃんと出来ただけで褒められて、頭を撫でてもらえる。今日は爪とぎもくれた。
この青年が、ターゲットの村井誠司だと知った時は焦ったが、誠司には殺されなければならないような極悪なところなど少しも無い。それに、人間だった頃のあれこれを考えないくらい、ここの生活を気に入ってる。
食べ終わって毛づくろいをしていると突如ドアホンが鳴り、純平は動きを止めた。
レポートを書いていた誠司は 少し面倒くさそうにドアスコープを覗いたが、すぐにドアを開けた。
「びしょ濡れじゃないか牡丹」
「夜食まだでしょ? 差し入れ」
訪問者は茶髪ツインテールの若い女だ。彼女だろうか。純平はじっと様子を伺った。
「もういいって言ったのに……。とにかく上がれよ。風邪ひく」
「イイって。勉強の邪魔だしすぐ帰る」
けれど誠司はスッと女の手を取り、部屋に招き入れる。タオルを渡してやると女は嬉しそうに笑った。
「じゃ、お言葉に甘えて……。本当はさ、雷の中をまた帰るの怖かったんだ。ほらちょっと前、そこの川沿いの木にカミナリ落ちて、傍にいたどっかの男が病院送りになったでしょ?」
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