曇りのち雨、ところにより猫

14/20
前へ
/20ページ
次へ
名の由来に妙に納得した純平だったが、女はあまり興味無さそうにポンと純平を床に下ろすと、「実はさぁ」と、少しばかり真剣な声を出した。 「今日は差し入れのほかに、いっこ大事な話があったんだ。……セージくん、もしかしたら狙われてるかもしんない。ここに居たらヤバいと思う」 「?」 「私にべた惚れの男がさ、私とセージくんの仲を勘繰ってんの。付き合ってないって何度言っても聞いてくれないし。……ほら、黄金町サンダーにくる赤毛男。分かるでしょ? あいつマジで何しでかすか分かんなくて。だからセージくん。……私のマンションに来て!」 純平は息を飲んで二人を見上げた。 「私のマンションならセキュリティもばっちりだし、あんな凶悪単細胞、絶対入れ……」 「行かないよ」 「ホントに危険なんだって!」 「牡丹のマンション、猫飼える?」 「……厳禁だけど」 「じゃあダメだ。ちくわを置いていけない」 不満げに頬を膨らませた女の方は見ずに、誠司は純平に「な?」と優しく問いかける。 純平の心の涙腺が緩んだ。 ――ヤバい、こいつマジでいい奴かも。 涙が流せない代わりに、純平は小さくミャン、と鳴いた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加