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ヘッドライトを消したまま走らせた車を、雅刀は深夜の住宅街にそっと停めた。ポケットの中のナイフを握り締めると、そのまま車を降りる。
あれから部下たちにどれほど探させても、時田純平の姿は見つからなかった。村井誠司を殺す度胸がなかったとしても、逃げる度胸と金があるとは思えない。
――いずれ見つけ出してやる。その前に……村井だ。
雅刀は昨晩も牡丹の行動を追っていた。誠司のアパートに夜食の差し入れをしに行くまではいつも通りだった。しかし、ここからがいつもと違った。誠司は帰ろうとした牡丹の手を無理矢理引いて、部屋の中に引きずり込んだ。その後何があったのかは想像するだに忌まわしかった。
――あの男は女に興味がない体を装いながら牡丹を抱いた。それが意思に反してたのは、帰り道の沈んだ様子を見れば明らかだ。……あいつを殺る。俺の手で。
時間が経つにつれて増幅した怒りが、雅刀を駆り立てた。
今にも傾きそうなそのアパートは、不気味な静けさに包まれている。足音を殺して目的の部屋の前に立った。合鍵でドアを開け、暗闇に目を慣らそうとゆっくりと靴を脱ぐ。膝下に突然柔らかいものがぶつかってきた。
――なんだ?
利き足に纏わりつくそれを、逆の足でなぎ払う。緑色のふたつの光が雅刀に向けられている。
――猫か。
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