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「ふー」小さな生き物はよろめいてはいたが、まるで主人を守ろうとするように、真っ直ぐ雅刀に向かってくる。足に小さな牙を立ててきた。
――生意気な。
雅刀は猫を容易く持ち上げて片手で喉を掴んだ。小さな手で雅刀のジャケットに爪を立て、足をじたばたとさせる。闘志を失わない丸い目が、やけに苛立ちを煽った。知らぬ間に手に力がこもる。
「み……」
それでも誠司に危険を知らせようとしているのか、鳴き声にすらならない掠れた音を喉から出す。爪が柔らかな首筋に食い込んでいく。子猫はとうとう抗う力もなくし、四肢をだらりと垂らした。
雅刀はそれをゆっくりと床に下ろし、汗ばんだ手のひらを服で拭った。
「……ちくわ?」
部屋の奥から男の声がした。
――早く行動に移さないと。
電気を点けようと、誠司がベッドから身体を起こす。雅刀はポケットからナイフを取り出した。折り畳まれた刃を起こし、誠司めがけて突進した。瞬間、蛍光灯が煌々と光った。
一直線に突き出されたナイフをすんでのところでかわし、誠司は驚きの目を向けた。
「お前は……!」視線が宙を泳ぎ、玄関付近で止まった。
「ちくわ?!」咄嗟に動かなくなった子猫に近付こうとした誠司に向かって、雅刀はナイフを突きつけた。
「なんの力も無いくせに、何度もしつこく向かってきやがるから、絞め殺してやった」
雅刀が事も無げにそう言うと、寸刻前まで悲しみをのぞかせていた誠司の目に怒りが滾った。
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