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気が付くと純平は、見覚えのない白い部屋に寝かされていた。起き上がろうとしたが、やけに体が重い。
消毒の匂いと硬いベッド、白いパジャマ。
――病院。なんで?
「あ、起きないでください。眩暈や吐き気は?」
部屋に入って来た看護師が慌てた様子で問いかけて来たが、純平は構わず起き上がって逆に質問を浴びせた。
「なんで俺こんな所にいるんだ? 誠司は? 誠司はどうなったんだよ。なあ!」
「まだ混乱されてるんですよ。あなたは 6日前に落雷のショックで意識を失って、身元不明で搬送されてきたんです。落雷の事は覚えていますか? 名前を言えますか?」
落雷。身元不明。
純平の脳裏に誠司と女の会話が蘇った。そうだ、自分は雷の晩……。
「思い出した」
「思い出しましたか。あなたの名は?」
「ちくわ」
もう看護婦の言葉など耳に入らなかった。傍の棚に入れてあった自分の服一式を引っ掴むと、純平はそのまま病院を飛び出した。
場所はちゃんと頭に入っていた。けれどあの金貸しが誠司のアパートに殴り込んで来てからどうなったのか記憶にない。
純平は駅のトイレで着替え、祈る気持ちで誠司のアパートに急いだ。タクシーに乗る金はない。ズボンのポケットに入っていたのは、小さなカッターナイフだけだ。これ一本持ってあの晩、誠司を殺しに出かけたのだ。自分のバカさ加減に死にたくなった。
――無事でいてくれ!
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