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息を切らせてたどり着いた誠司のアパートの前にはパトカーが停まっていた。
純平は気の遠くなる思いで野次馬を掻き分け、突進した。
目に飛び込んできたのはボロボロになってパトカーに乗せられようとしていた男。金貸しの男だ。
――誠司は!?
警官が行きかう中、地面に跪き、誠司は泣いていた。手の中には小さな子猫。ピクリともせずに横たわっている。
子猫の名を何度も呼び、肩を震わせる誠司。胸が潰れそうに苦しかった。
――あんなに泣くほど誠司はちくわを大事にしてくれていた。中身はアホンダラの俺で。そして死んだのが猫の方だとか、そんな理不尽があるわけないんだ。そうだよ、こいつが死ぬわけないんだ!
「起きろちくわ! 目ぇ覚ませ! 誠司が泣いてんだろうが!」
誠司が赤くなった目を見開いて見上げて来た。けれど構わず純平は叫び、無意識に手を伸ばした。――頼む。目を開けてくれ!!
子猫の柔らかな背に手が触れたその瞬間。バシッと指先が放電したように光った。
「ちくわ!」誠司が叫ぶ。
手の中で、子猫はふわ~っと伸びをし、そして つぶらな目をゆっくり開けたのだ。
感極まって誠司は何度も名を呼び、柔らかな体に頬ずりする。
目の前で起きたその奇跡に、純平の目も霞んで嗚咽が漏れた。
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